ひと月もエッセイを休んでしまってごめんなさい。
9月1日のリニューアルオープンに向けての準備で忙しかったのはもちろんですが、
自分の運命と向き合うことを先送りにしていました。
今日、このサイトを見てくれた Y さんから励ましのメールをいただきました。
今、工藤さんも私も、最初の輸入業務で神経をすり減らしていました。
そこに飛び込んできた温かいメール。
一体どれほどの人がこのエッセイを読んでくれているのか分かりませんが、
「私が書くことで CILEK のよさが伝えられるのだ」と思ったら、勇気が湧いてきました。
拙い文章ですが、がんばって書きます。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ホテルの部屋に入り、熱いシャワーを浴び、パジャマに着替え、歯を磨く・・・そんなことをしていても、頭は熱に浮かされたように、ひとつのことを考え続けていた。「一体、私はどうしたらいいのだろう?」
才四郎君を寝かしつけ、二人で話し合いをもつ。
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ブルサからイネギョルへの道は
こんな風光明媚な景色 |
工藤さんは、早速、実現可能かどうか、という検討を始めている。どこで資金を調達するか、お店をどこに持つべきか。
私は、工藤さんの潔さがうらやましかった。「やりたい」だから「やる」、そんなストレートなはっきりとした自信が欲しかった。
でも、思いつくのは、前に立ちはだかる「壁」の多さだった。
資金を調達できるのか、実際に店を持つとしたら、まだ1歳の海星をどこに預けるのか、夏休みは?従業員だって必要だ。経理の知識だって無いのに・・・。
具体的な障壁ばかりが胸を苦しくする。
工藤さんは、今日の会議で退室する前にセットしていった、社長とのミーティングを撮影したビデオをみて、会議の成り行きを追っていたが、私はビデオを見ることすらできなかった。
自分の拙い受け答え、そして今すぐ結論を出さねばならない大きな問題を、直視する勇気が無かった。
考えて、考えて、考えて。
夢の中でも考え続けていた。
帰国後すぐに店を持つことは不可能だ。
資金を調達するにしても、実際に販売をした実績と、将来の事業計画が、具体的な数字として計上できるようでなければ、何千万ものお金を借りることは不可能だろう。
準備期間にどのくらい必要なのか。このチャンスを失うことなく時間的な猶予をもらう事は可能なのか?
半ば目覚め、半ば夢の世界を漂ううちに、天からの啓示が降ってきた。
私は、はっと目覚め、時計を見た。午前4時。
今、考えていたことをベッドの中で推敲してみる。そして、はっきりとした頭の中で、文章を最初から思い出してみる。
これだ。これを文書にして、提出しよう。
真っ暗な部屋に、バスルームの明かりがぼんやりと光を投げかけている。
こっそりとベッドを抜け出し、ノートを持って、バスルームの便器に座り、猛烈な勢いで文章を写していった。その数、B5ノートに8枚。
CILEK を訪問し、製品の完成度以上に、従業員の人間性に感銘を受けたこと。
なぜ私が CILEK を紹介しようと思ったのか。
日本市場の問題と、私たちの輸入への努力。
なによりも、CILEK を愛している私が、既存の家具屋にばら売りをするのではなく、「ひとつのブランド」として、育てていく決意をしたこと。
私たちの事業計画と具体的な提案。
そのために、半年間、CILEK の知名度を上げる努力をし、オンラインショップでの販売をスタートすること。
そして、来年度を目標に、ショールームを開く準備を進めること。
最後に、これを実現するために CILEK に協力して欲しい5項目を明記して、回答を締めくくった。
これほどの長さの文書を作るのに、ほとんど書き損じは無かった。不思議だった。
時間は優に1時間を超え、心配した工藤さんが「具合が悪いの?」と声を掛けてきた。私は原稿を見せ、感想を求めた。そして了解を得ると、社長に提出できるように、すぐ清書を始めた。
膨大な長さの文書だったため、清書が終わったときには日が昇っていた。
今日は、晴れている。
トルコに来てから、ずっと曇っていたのに、すっきりとした青空。
私たちの決意を歓迎してくれているようだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ホテルの朝食は素晴らしかった。
普通、イギリス以外のヨーロッパではコンチネンタルブレックファストで、パンとコーヒーといった簡単な食事が多いのだが、ここはまったく違う。
卵、温かいスープ、見たこともないほどの種類のハムとチーズ、フレッシュなトマトやきゅうり、シリアルにヨーグルト、それに味の濃いドライフルーツなどなど。
真っ白い清潔なテーブルクロスのかかった大きなテーブルで、ゆったりとした朝食をとった。
そこに、エロールさんがやってきた。
そろそろ、出発しなくては。緊張が走る。どうぞ、会議が成功しますように・・・
昨日も走った CILEK への道を今日も進む。
記録も撮らなくては、と気づき、幹線道路からの5分ほどの道のりをビデオで写し取っていく。昨日も感じたことだが、守衛さんもホテルのベルマンのような品格を備えている。ゲートをくぐり、車を止め、水の上の白い道を辿っていく。
会社に入るとすでにタマーさんが準備を整え、待っていてくれた。
会議室に通されると、まず飲み物を聞かれた。
「チャイを」とお願いすると、すぐに戻ってきて、社長からの伝言で「日本茶をまずお持ちします」という。「その後でチャイをお出しします」と。
テーブルを見ると、通常あるミネラルウォーターのほかに、大皿に山盛りのお菓子がのっている。
何の気なしに見つめていて、ふと気づいた。
このお菓子は、才四郎君用に特別に用意してくれたものだ。
そして、緊張している私たちを気遣って、緑茶を用意してくれたのだ、と。
エロールさんによると、 3人の社長のうち(3兄弟で会社を経営している)、1番上の社長は大の日本茶好きで、わざわざ日本から緑茶を取り寄せているのだそう。
確かに、出された緑茶は、飛行機などで出される「緑色の飲み物」ではなく、ふくよかなうまみも深みも申し分なく、日本でもこれだけ美味しいお茶を出す会社はあまり無いと思った。
才四郎君は、牛乳の美味しさに感動して「にゅうにゅー、もっとー」といっている。
私たちに対する、細やかな心遣いに、胸が熱くなった。
会議が始まった。
まず、エロールさんとタマーさんが席に着いた。
私は、社長に回答を出す前に、エロールさんに文書を渡し、読み合わせをしておきたいと言った。
私が日本語で読み上げ、エロールさんがトルコ語に訳す。不明瞭な点はそのつど確認し、進めていく。
長い時間がかかった。
途中、何度かタマーさんの質問が入ったが、すべて読み終わった時点で、ふたりはにっこり笑って「O.K.」といった。何も、問題ない。協力しますよ。
えっ?これで終わり?
そんな感じだった。
つまり、社長に最終決断を仰がなくても、二人が「O.K.」といえば、それで了解、ということなのだ。
「それじゃあ、昨日見られなかった部署をご紹介しましょう。」
そういって、二人は私たちを工場へと誘っていった。